KARAO's Web Special
「今あらためて考えるマキシシングル〜浜崎あゆみ『中身のマキシ化』大成功」
1999/08/19掲載


■通説「マキシシングル3つの存在理由」
言うまでもなく、最近シングルの中で「マキシシングル」が非常に流通している。ざっとリストアップしてみると「宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、SPEED、HITOE'S 57 MOVE、センチメンタルバス、福耳、Dragon Ash、L'Arc〜en〜ciel、鈴木あみ、Misia、坂本龍一、TRUE KiSS DESTiNATiON」 などいろいろなアーティストが活用している。ブームという言葉は当てはまらないかもしれないがこれだけ多くのアーティストが採用するのにはやはりわけがあるが、よく言われている通説としては3つの理由が挙げられる。

1つ目が最大の要因と思われる「レンタル解禁日の意図的延期によるCD売上増加」ですね。シングルがバブル期のようにまんべんなく売れる時代は終わり「Automatic」や「ウラBTTB」のように売れるものに対しては異常なほどの好調な売れ行きを示す一方で「そこそこ売れる」という中間層がなくなり 「売れるか売れないか」という非常にシビアな世界になっていることで、レンタル解禁を伸ばしてCDを1枚でも多く売ろうという傾向がレコード会社サイドを中心に起きている。

続いて2つ目は「外資系レコード店対策」。海外では8cmという規格でシングルCDはほとんどリリースされておらず、その流れから外資系レコード店には8cmシングルをおくスペースがあまり確保されていないケースが見受けられる。 アルバムサイズならこのようなお店でも置いてもらえる可能性がグッと高まるわけだ。

そして3つ目は「大きいからお得」という非常に単純な理由。ただインパクト性や見た目(歌詞カード類やジャケットが8cmシングル以上に凝れる)という点は重要だろう。
■8cmシングルの代替商品?
以上3つの通説はすべて「8cmシングルでは売れないからサイズだけ12cmにしよう」という発想のもと、売上増加を露骨に狙う「初回特典」のようなものとして活用されている現状をあらわしている。

確かに販促として一定の効果を上げているかもしれない。しかしこれだけ多くのシングルがマキシシングルとしてリリースされてくると「結局8cmシングルの代替品なのでは」と消費者サイドは敏感に感じ取っているだろう。 見た目はアルバムぽいが結局シングル、というのでは「アルバムといっしょに収納できて便利」「サイズが大きいのに価格がそんなに高くなくてお得」という程度のものでしかないのではないだろうか。
■新たに芽生える「マキシシングルだからできる」手法
そんな「代替商品」「商売」としての従来のマキシシングルの方向とは全く逆の、「マキシシングルだからできる」スケールメリットをフル活用している例があらわれはじめた。

その代表が浜崎あゆみ。シングル「LOVE〜Destiny〜」がドラマ主題歌に採用されロングヒットした彼女だったが次作「TO BE」はJT「桃の天然水」CMソングという万全の体制でスマッシュヒットしたものの「LOVE〜Destiny〜」のような勢い・息の長さが感じられなかった。 「ヒットを定着」させるべく編み出された次の手は「花王ソフィーナオーブルージュドレシャス」というCMイメージソングによる大量露出効果、つまり「桃天」CMと同じ手法をとることになった。

それでは、とavexがひねりだしたのが「初のマキシシングル」というもの。もちろんこれでもインパクトはあるが定石でいけば「浜崎あゆみも売上確保に走った」などと思われてしまうところ。しかし彼女の場合「10曲入りの」マキシシングルというふれこみになっているのである。

この「Boys&Girls」には「Boys&Girls」のリミックスに加え「LOVE〜Destiny〜」「TO BE」のリミックスも収録された。Weekly KARAOの総評でも「いい意味で『裏切られた』気のする」作品と称したように突然のリリース方法変更には驚かされた。 さらにこの曲、当初は鈴木あみやポケットビスケッツの好調さの影響で初登場から2週連続2位だったがそこからねばり強さをみせ首位に浮上、しかも彼女自身初となる2週連続の首位まで達成、売上ももちろん自己最高を更新するに至りました。

そして8月にリリースとなった最新シングル「monochrome/Trauma(『A』)」ではJT「桃の天然水」、HONDA「ジョルノクレア」、森永チョコレート「こんがりショコラ」のCMソングとしてのタイアップ曲4曲とリミックスの計14曲を収録。完全に「アルバムと同等のクオリティを保った」シングルがここに誕生。

結果は同日発売されたラルク・アン・シエルのマキシシングル「DRIVER'S HIGH」を抑えて見事首位に輝きました。
■アルバム化できるマキシシングル、低価格化に新たな可能性
8月15日付チャートでは2枚のマキシシングルが初登場1位と2位だったことは上でも述べました。比較するようで大変恐縮ですが、2位だったラルク・アン・シエルの場合同じマキシシングルでしたがこちらの収録数は2曲。 もちろんラルクの場合このシングルがヒットアルバム「ark」からのカット曲だったという事情もありますが、曲数が1位と2位で明暗を分けた形になります。

(ちなみに公平を期すため記すと、浜崎あゆみは4種類の初回限定カラーCD、ラルクの場合初回限定sweet box package仕様、と共に初回限定特典をつけてのリリースとなっています。)

浜崎あゆみの例は極端かもしれない。しかし従来「形だけマキシシングル」でも十分インパクトがあったマキシシングル市場、リリース数が増えるにつれ化けの皮がはがれつつあるだろう。マキシシングルのいうカテゴリーの中でその「大きさ」ではなく「中身」を全面的に押し出したことが功を奏したことは間違いない。

このように大きさがアルバムと同じメディアサイズであるマキシシングルが、浜崎あゆみのように「中身もアルバム同様の量と質を保つ」作品のリリースが増えると非常におもしろくなってくる。

つまり、マキシとはいえシングルと銘打つわけで価格はやはりシングル並に設定されるわけである。このあたり「シングルは相対的に価格が高い」といわれている不満の解消、消費者ウケしそうな気配が漂っている。
written by nori.
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