「動き出した『音楽コンテンツ配信』日本での普及の可能性を探る」 1999/09/25掲載 |
■コンテンツ配信の鍵を握る「データ形式と配信方法」の現状
今やパソコン雑誌だけでなく、一般雑誌にも登場する話題のキーワード「mp3」。アメリカでは全米レコード産業協会が「無料で入手できるMP3ファイル」の登場でCDの売上が減少したと年次報告で名指しで原因として挙げるほど普及している(*1)。日本でも数多くのサイトに発売直後の最新曲がアップロードされている現状を見ればその浸透度がうかがえるだろう。初心者でも簡単な操作でCDからダイレクトにmp3ファイルへ高速変換してくれるソフトウエアも市場に出回っている。Windows用に限らず、Macintosh用の変換ソフトもリリースされた(*2)ことで、爆発的な売上をみせたiMacでもmp3ファイルが作成、再生できるようになった。
そのようなブームとも言える普及をみせるmp3にハードメーカーも敏感に反応している。まずは携帯mp3プレイヤーの代名詞とも言えるダイヤモンドマルチメディア「Rio」はUSBでプレイヤーとパソコンを簡単に接続できる「Rio500」を発売(*3)、さらにアイオーデータ(*4)などが製品を次々と発表、東芝も既に年内の参入を発表(*5)している。 一方ソニーは先日、次世代型のウォークマンとなる「メモリースティックウォークマン」を発表(*6)、こちらのデータフォーマットはMDに採用されている音楽圧縮技術「ATRAC」の2倍の圧縮効率を誇る「ATRAC3」を用い、著作権保護のため2つの技術を採用している。またハギワラシスコムは1/18という高圧縮率を実現する圧縮技術「twinVQ(SoundVQ)」(*7)を使った製品(*8)を実用化、すでにインターネットによる配信(*9)も行われている。 日本のユーザーに既に定着したMDへのデータ配信はすでに実用化レベルに達している。CS放送のSky PerfecTV!では従来から第一興商のデジタルラジオ「STAR digio」(*10)などでMDへの録音を行うフリークが多く存在するが、さらに今年の5月から放送がはじまり、小室哲哉も興味を持っていると言われている音楽番組「MusicLink」では著作権問題もクリアになり、楽曲のMDへのダイレクト録音を可能にしたハードがソニーから販売(*11)され、子会社のソニーミュージックの番組への楽曲提供も10月以降行われる予定だ。 東京・渋谷で行われた実験も「コンテンツ配信」の観点から見逃せない。ベンチャー企業ブイシンクの開発した「MUSIC POD」(*12)はMDへのダイレクト録音が街中でできる配信端末。楽曲の蓄積されたサーバーとアクセス網でつながれており、7月から1ヶ月、JR東日本や日本テレコムと共同で試行販売実験が行われた。 他にもたくさんのデータ形式・配信方法が存在するが、データ形式としては「MDへの録音を目的とした従来形式」と「インターネットを前提とし、圧縮技術を用いた形式」に集約されるだろう。また配信方法はインターネット経由、CS放送経由が中心になっていくだろう。
■ソニー「ネット配信」プラン、ネックは新型ウォークマンの「連続再生4時間」か
「ウォークマン」という商標ブランドで音楽との接し方を一変させたソニーが仕掛ける次世代型ウォークマンの詳細がついに発表された。その名は「メモリースティックウォークマン」で12月21日に発売が決定した。メモリースティック(*13)といえば「VAIO」やデジタルビデオカメラの「ハンディカム」にもスロットが装備されるなどソニーが強力に押し進めている話題のデジタルデータ記録メディアだ。
さて、今回の新型ウォークマン、形状は携帯電話を思い起こさせるスタイルで重さも69gと超軽量。振動にも強く、パソコンとはUSB接続が可能、インターネット配信で取り込んだ楽曲のやりとりもスムーズに行えるようになっている。データ形式はMDに採用されている音楽圧縮技術「ATRAC」の2倍の圧縮効率を誇る「ATRAC3」を採用。これにより64MByteのメモリースティックに約80分の録音が可能になっている(mp3とほぼ同等の圧縮率とみられる)。2種類の著作権保護技術「MagicGate」「OpenMG」によりビジネスモデルとしてのネット配信も安心して行えるわけだ。 それと歩調を合わせるように、子会社のソニーミュージックエンタテインメントは年内の有料音楽配信サービス参入を決定(*14)。配信を拒否しない全アーティストの楽曲を対象に、1曲200円から500円程度で販売を行う。これら動きを見る限り、ソニーは年内にも「ネット配信→メモリースティック→新型ウォークマン」という完全な一連の流れを構築してしまうことになる。 しかし問題も指摘されている。1つはソニーミュージックのネット配信の楽曲の価格。歌手や作詞・作曲家の印税など「これまでの水準を確保する」という意向から100円というような破格な値段は付けがたい。さらに新曲となればそれ相応の価格となり、競合するレンタルCDとの差別化を図る必要があるだろう。1つ目の問題がクリアされたとしても、ネット配信ではメモリースティックの他にMDやCD-Rを通じたCDプレーヤーへの対応も予定しており、MDで数十時間の連続再生が可能な現在において「連続再生時間4時間」という新型ウォークマンがどれだけ消費者に受け入れられるかは検討の余地がある。
■結局、インターネットで音楽配信は普及するのか
ソニーに限らず、今後行われる実際の音楽配信はビジネスモデルとして普及するのだろうか。最も浸透しているmp3ファイルも1曲当たり約4MByteから5MByteのサイズになっている。インターネット配信の場合これをダウンロードするわけだが、アメリカのように市内定額料金による常時接続的な環境なら問題ないかもしれないが、日本のようにインターネット環境が劣悪な場合、現時点では「気軽に」ダウンロードできるようなものではないだろう。楽曲の価格に加え電話料金、通信料金が加算されると、とてもレンタルCDには歯が立たない。
もちろん価格以外の面で対抗する事は可能だ。例えば「CDリリースより先にネット配信を行う」「マキシシングルによるレンタル解禁引き延ばし」「ネット配信だけの特典の付与」などが考えられるが、CDリリース以前の配信を行ってしまうと本来のCDセールスに影響が及ぶだけでなく、既存レコード店の不信感を増幅させる逆効果も考えられる。 結局のところ、普及の鍵はインターネット接続コストの引き下げによる、データ購入の際の「トータルコスト」が妥当な水準にまで低下するかどうか、という点に絞られてくるのかもしれない。 [参照URL・記事一覧]
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