KARAO's Web Special
「イマドキ音楽データブック」
〜あゆとヒッキーに見る「CDマーケット戦略」
2001/04/10掲載

◆ 予約では「あゆ」が勝っていた?
カラオのランキングで既にご紹介したとおり、宇多田ヒカル「Distance」が1位という結果になった4月1日付ランキング。ところが、データを見てみると、宇多田ヒカルが293.7万枚、浜崎あゆみが281.2万枚とその差は10万枚程度でした。

さらに、レコードショップの予約状況を聞いていると「浜崎あゆみの方が優勢」というのが実情だったようです。初回出荷枚数で、あゆがヒッキーの315万枚を上回る378万枚だった、というのもこのあたりが影響しているのかもしれません。

(ただ、どうもヒッキーの方は「注文しても満足に出荷されなかった」という話もあり、生産の限界が315万枚だったのかも、という見方もあります)
◆ 10代から20代前半に強いあゆ=その他の層にも強いヒッキー の差
予約状況では勝利をおさめていた浜崎あゆみですが、いざふたをあけてみると、予約をしない=普段レコードショップに立ち寄らないようなライトユーザーを惹き付けた宇多田ヒカルに軍配が上がった…

というのが今回のおおまかな流れなのですが、この「ライトユーザー」には、J-POPというくくりでみたターゲット層とは違う、比較的年齢の高い層の存在があったようです。

というのも、10代から20代前半の間ではヒッキーの「Distance」よりあゆの「A BEST」方が多く売れていたんです。
つまり、裏を返せば、10代から20代前半というJ-POPのターゲット層以外の購買によってヒッキーは1位を獲得できた、ということになります。

CDを1枚でも多く売りたいレコード会社にとって、CDのメーン購買層にターゲットを絞るやり方は至極合理的です。実際、あゆを抱えるエイベックスでは「女子高生とメールでやりとり」しながらティーンのニーズをキャッチし、それにあった楽曲づくりを行うことでヒット曲を連発しています。
◆ 「10代・20代向け」でない作りがヒッキーに1位をもたらす
「CD購買層=10代・20代」という従来の図式が、携帯電話の登場で狂い始めた昨今。ティーンの購買力が落ち込む中で、それ以外の層の心をつかめる作品がヒットチャートでも上位にくい込む傾向が鮮明になってきましたよね。
▼ 「10代・20代向け」でない例(編集部推定)
ジャンル代表的存在
癒し系坂本龍一/「feel」/「image」
ジャズ綾戸智絵
ボサノバ小野リサ
雅楽東儀秀樹
演歌大泉逸郎/氷川きよし

最近では上の他、ゴスペラーズや井上陽水の「コーヒー・ルンバ」がロングヒットするなど、まだら模様ながらいろいろな層が「力を持った購買層」になりつつあります。こうなってくると、10代や20代にターゲットを絞るという選択肢の他に「あえて絞らない」というやり方も出てきてしかるべき、と見ることができます。

宇多田ヒカルの1stアルバム「First Love」があれだけ売れた理由として、同時期にリリースされた「だんご3兄弟」によってCDのメイン購買層以外もレコードショップに足を運んだから、という分析がなされています。

しかし、今回ヒッキーが1位になったのは、その「メイン購買層以外」を惹き付けるだけの商品価値が宇多田ヒカル本人と、そこからつむぎ出される作品にあることを自ら証明したように思えます。
◆ 「ベスト盤反対論」は大手レコード会社に当てはまらず
今回のテーマで、カラオは別に「ベスト盤は商業的すぎる」というような、チープなベスト盤反対論を展開するつもりはありません。なぜなら、CDが売れない今、レコード会社側にとってシングルを集めたベスト盤をリリースすることは経営判断から言えば至極当然なことだからです。

CDという製品の性質上、文化論まで持ち出して「売れる音楽はダメ」と言う人がいますが、それはちょっと違いますよね。

「宣伝しまくって1枚でも多くCDを売る→利益で新人発掘しプロモーションでヒットに導く」の繰り返しサイクルに支えられている大手レコード会社。そこからCDを出しているアーティストというのは、大ヒットを飛ばせるチャンスをしっかりつかんでいるし、だからこそ売るためのCDを作ることが義務にもなっていると考えられます。
◆ 売るための「ベスト盤」をなぜベストなカタチで売らなかったのか
カラオでは、4月1日付の「A BEST」の総評として、

敢えてキツいことを言ってしまえば、以前リリースしたアルバム「LOVEppears」で2枚組という形態を採用しているのですから、今回も「デビュー曲から最新曲までシングル全曲を完全収録した2枚のCDに加え、初回特典ではオリジナルのハイパーユーロリミックスとプロモ映像のダイジェストをおさめたプレミアCDを封入、さらに期間限定サイトもオープン!」といった内容でもいけたはず。

と記しました。これに関して、非常に多くの読者の方から、様々なご意見をいただきました。

わかりにくい部分があってなかなか真意をご理解いただけなかったのですが、カラオとしては、「ベスト盤=売るためのもの」なのであれば、徹底的に売れるようにバックアップするのがレコード会社の役目なハズではないか、と感じています。

インターネットでの音楽配信のスタートなどで、存在価値が問われているレコード会社。その至上命題でもある「CDを1枚でも多く売る」という目的達成のため、アーティスト本人を苦しめてまでベスト盤を出すんだったら、ベストとしての内容に遜色がないような、思い切ったものを出せばよかったのに、ということです。
◆ ベストに続いて今度は「シングルコレクション」で一儲け?
「もしも」は通用しませんが、シングル全曲を収録していたら多分あゆが1位を取っていたでしょう。それをなぜしなかったのでしょう。

「レコード会社にも良心があった」からではないことは、過去のシングルを一挙再発し、リミックスアルバムを乱発するようなやり方を見れば一目瞭然。

まさか、「ベスト盤」に続いて「シングルコレクション」を出してさらに儲けようというしたたかな戦略が隠されている、などということはないですよねぇ…

written by noriaki amano.
上記内容はすべて掲載時点でのものです。
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