KARAO's Web Special
「低価格CDはもう買えない?「音楽CD逆輸入」のゆくえ」
2004/01/18掲載

ディスカウントストアやホームセンターで、最新アルバムなどが安く並べられているのを目にした方も多いと思います。これは、アジア各国で正規のルートで販売されているものを“逆輸入”して販売しているもの。

日本と比べ物価水準が非常に低いアジア各国での販売価格は、日本での販売価格よりおおむねかなり安くなっており、それを輸入すればかなり安く販売できる訳です。

韓国が日本語音楽CDの販売を解禁するなど、海外展開積極化の下地ができつつあるなかで、業界団体などは足かせになっている「逆輸入CD」を法的に禁止しようと躍起になっています。その一方、消費者団体は強く反対しています。

そこで今週の特集では、話題の「音楽CD逆輸入」を巡る動きをまとめてみました。ちょっとおカタい内容ですが、法律が成立すれば「音楽CDの値下がりがさらに遠のく?」「洋楽輸入CDも買えなくなる?」といった危険性もありますので、身近な問題としておさえておいて損はないですよ。
◆ 同じ商品が海外では「5分の1以下」で売られる現状
日本の音楽に関する引き合いの高さを反映し、2002年には台湾の200.7万枚を筆頭に、あわせて465.4万枚がアジア地域へライセンス供与されています(社団法人日本レコード協会調べ)。

▼2002年の原盤ライセンスの数量(CD+カセット)

(社団法人日本レコード協会調べ)

これらCDは、物価水準が違いすぎるため、日本のように「1枚3000円」ではとうてい販売できず、現地の物価水準にあわせて販売がなされています。例えば、中国や台湾では現在500円から1500円のあいだで販売されることが多いと言われています。

これに目をつけたのがディスカウントストアやホームセンターで、この安いCDを輸入して国内で売れば大きく儲けられる、というのがそもそもの発端になっています。

音楽CD以外のコンテンツ、例えば雑誌・書籍・映画などには「言語の違い」という障壁があるため、アジアで売られているものをそのまま輸入しても現地の言葉が分からない人にはあまり役に立たず、逆輸入が一般に普及しにくい事情があります。

しかし音楽CDは、CDに収められている楽曲は日本語で歌われているものがそのままであり、逆輸入すればそのまま日本人が楽しめてしまいます。ブックレットなどは現地語で作られているとはいえ、音楽が楽しめればよいというユーザーもいると思われ、他のコンテンツに比べればそれほど大きな障壁とは言えないでしょう。
◆ レコード会社側の被害妄想? 逆輸入CDの流通量は国内市場のわずか0.43%
実際のところ、音楽CD逆輸入がどれぐらい行われているのだろうか。株式会社文化科学研究所の調査結果によると、ディスカウントストアとホームセンターにおけるCDの販売量は58.9万枚。カセットテープをあわせても68万枚にとどまっている。

ちなみに、社団法人日本レコード協会がまとめている2003年1月から11月までの12cmCDアルバム生産実績は、1億3481万枚となっており、この数字と比較するとたったの0.43%でしかないのである。

▼逆輸入CDの現状と国内市場規模

(逆輸入CD枚数は株式会社文化科学研究所、その他数値は社団法人日本レコード協会より)

このように、実のところ、騒がれているほど現状被害は出ていないというのが事実なのだ。
◆ 業界団体と消費者団体の議論は平行線、その主張とは
ただし、レコード会社側の危機感は相当なようで、業界団体が政府に働きかけた結果、文化庁の文化審議会で、法整備を行う方向で検討が行われています。

現時点で、議論は業界側と消費者団体側で平行線をたどったままとなっています。それぞれの主張をまとめてみました。

【業界団体側】=逆輸入CDの禁止に賛成
  • 逆輸入CDが野放しにされると、アジア各国へ日本のCDを輸出することに対し慎重にならざるを得ない。海外進出が遅れてしまう
  • このままでは伝統文化など利益が出ない商品が作られなくなり、文化継承の観点から問題がある
  • 被害拡大を防止するため緊急を要するのでまずは導入し、消費者側に大きな不利益が発生した場合はその際再度議論すべき
  • EUやアメリカをはじめ、既に65ヶ国が何らかの制度を導入しており、国際的に見ても導入を検討すべき
  • DVDのリージョナルコードのような技術的に逆輸入を防止する手段が存在せず、法規制が必要である
【消費者団体側】=逆輸入CDの禁止に反対
  • ・日本には文化的側面から価格競争を抑制する「再販制度」が既にあり、これに加えてさらに「逆輸入CD禁止」を行えば小売価格の高止まりが一層強まる
  • 現在行われている、文化庁・文化審議会の参加メンバーが著作権権利者に偏っているため、権利者に有利な結論が導き出されるおそれがある
  • 法整備が行われると、洋楽輸入CDや、音楽CD以外の分野にも適用が拡大・波及するおそれがある
  • 法的規制ではなく、ライセンス先の企業との契約によって逆輸入を規制すべきである
  • 音楽CDだけを国際競争から保護するというのはおかしい
◆ 問題の根底には、日本特有の2つの制度の存在が
議論は白熱しているものの収束する気配は全くないのが現状である。この問題がここまでこじれているのは、日本には「再販制度」「レンタル制度」という2つの制度があるからだ。

1.再販制度

再販制度(再販売価格維持制度)は、メーカーが小売価格を決定できる制度のこと。日本では、どのお店でも定価でCDが販売されているのはこの制度のためである。諸外国でも書籍や新聞などでは導入されているケースはあるのだが、実は音楽CDについては他の国では例のない制度だと言われている。

「逆輸入CD禁止」と「再販制度」が併用されている国はひとつもないことが消費者団体側から「過剰保護である」と指摘される理由である。

ただし、レコード会社側も、再販制度の適用期間を当初の2年から半年へ短縮するなど、努力している面があることは付け加えておきたい。

2.レンタル制度

レンタルショップの全国的なチェーン展開で、非常に安価にCDを借りることができるようになった日本。実は、このシステムがここまで広まっているのも日本だけだと言われている。消費者側から見れば「買わずに済む」ことは大きなメリットだが、レコード会社側から見れば痛手になっていることは間違いない。


「逆輸入CD」への対処という“シロかクロか”の問題が、音楽業界に関する諸施策をどうしていくのかという非常に大きな問題につながっていることが、解決を困難にしていると言える。

さらに、

公正取引委員会は「正規CDの輸入阻止は独占禁止法上、取引妨害行為として問題」と指摘
産経新聞 2004年1月14日朝刊 11面より

という指摘もあがっており、文化庁(文部科学省)、経済産業省、さらに公正取引委員会(内閣府)が関係してくるだけに、調整は難航しそうだ。


【関連リンク】
文化庁「文化審議会」著作権分科会(第12回)議事要旨
「逆輸入CD」に関する議論が行われている政府の審議会の、1月14日に行われた会合の議事録。「報告書案」など、この会議の最終的な方向性が閲覧できる。
上記内容はすべて掲載時点でのものです。
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